nejmcps CAR-T療法中の意識障害

混乱に混乱

Confused about Confusion

N Engl J Med 2022;386:80-7.

DOI: 10.1056/NEJMcps2114818

 

5日前にDLBCLの再発に対する治療(CAR-T)のため入院になった49歳女性が、前日はいつも通りだったが、朝の回診の際に口数が少なく見当識障害が出現しているのに気が付いた。書字や復唱もできなくなっていた。

頭痛や嘔吐、神経の巣脱落症状、視覚異常、幻覚、痛み、排便・排尿異常、咳嗽、息切れはみられない。入院中に外傷や痙攣もない。

バイタルサインは正常で、神経診察では前述のように見当識障害などがあるくらいだった。

 

 

この患者の評価としてはDLBCL再発に対する治療中に発症した脳症である。

脳症は多岐に渡る鑑別があり、CAR-T therapy中の患者は免疫不全状態となるため感染性の脳症は考慮に入れる。しかし発熱なく、巣症状がないため感染症らしさは低くなる。

代謝性脳症ではリンパ腫による高Ca血症、肝性、腎性、VitB1欠乏、違法薬物使用または離脱などが鑑別。CAR-T療法では脳症になるのか?は気になるところ

 

患者は2年前にDLBCLと診断されており、免疫化学療法を2回行っているが再発している。これまでに中枢神経病変の指摘はなく、今回の入院の6週間前に頭部MRIが撮影され異常は指摘されていない。

アルコールや違法薬物使用歴はない。以前はソーシャルワーカーとして働いていた。

HIV・梅毒・HBV,HCV,トキソプラズマのスクリーニング検査は陰性。

CAR-T療法中にリンパ腫進行予防のプレドニゾロン投与を受けている

CVC関連血栓症に対してアピキサバン使用中

その他薬剤はPPI,バラシクロビル(予防)、ST合剤である。

 

入院後より化学療法が始まりフルダラビン+シクロフォスファミド+CAR-T実施

 

CAR-T開始から24時間経過したところで発熱がみられたがその他症状はなかった。血液検査ではCRP 0.6mg/dLと微増でその他生化学検査は異常なし、CBCはWBC 1150/mcLだった。Cytokine release syndrome(CRS)としてアセトアミノフェンとトシリズマブで治療開始された。また広域抗菌薬を培養検査の結果が出るまで継続する方針となった。

発熱は48時間で改善し、上記の意識障害が出るまでは患者の状態は良好であった。

 

 

CRSはchimeric antigen receptor (CAR)-T cell therapyなどを行われた患者でよくみられる症候群であり、投与した日より発症することもしばしば。トシリズマブによく反応する。

CRSと感染症を鑑別するのは難しく、CAR-T therapyを行った患者の3分の1は1か月以内に細菌・ウイルス感染症を発症する。

 

免疫細胞関連神経毒性症候群Immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeが考えられたためこの患者ではデキサメサゾン10㎎での治療が開始された。デキサメサゾン投与後口数も戻り、書字や計算能力も改善した。しかし、12時間後には再度同様の症状が出現し意識レベルも悪くなった。頭部MRIを撮影したが特記所見なし。Immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeの増悪と考えデキサメサゾン10㎎を6時間ごとに、2.5日間投与する方針となった。レベチラセタムで痙攣予防も行った。治療するとすぐに意識レベルは改善した。

 

デキサメサゾン開始後急速に意識レベルが改善しているためImmune effector cell–associated neurotoxicity syndromeらしさはある。グルココルチコイドはこの疾患において重要な治療薬である。もしも症状が続くのであれば髄膜脳炎(免疫性・感染性)、中枢神経リンパ腫の除外のためにCSFを検査するべきである。しかしデキサメサゾン投与後急速に意識レベルが改善したことはこれらの疾患らしさは低下する。Immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeでは痙攣の頻度は低くこの患者では痙攣はみられていない。通常痙攣の予防のための薬剤投与は不要。

 

デキサメサゾンのテーパリングを行ない始めたが、デキサメサゾン投与開始から7日目、デキサメサゾン10mg×2回/日の投与となっていたとき、見当識は保たれていたが焦燥や幻聴、混乱が出現するようになった。発熱はなく、神経局所徴候はみられなかった。

 

彼女はデキサメサゾンのテーパー中に急性のPsychosis(幻覚・混乱・焦燥)が出現した。入院中に発症したPsychosisは医療関連や薬剤関連を考える。この患者ではデキサメサゾンのテーパーはゆっくり行っておりImmune effector cell–associated neurotoxicity syndromeの再発は考えにくい。グルココルチコイドは投与開始から1週間以内はPsychosisの原因となりうる。またレベチラセタムも頻度は少ないがPsychosisの原因となりうる。その他のPsychosisの原因検索を行う前にデキサメサゾンを中止しPsychosisが改善するかどうかをみてみたい。また精神科評価も行ないたい。

 

精神科の評価では15年前の夫の死によるうつの病歴はあるもののその他異常はなかった。デキサメサゾンを早急にテーパーし、glucocorticoid-induced psychosisとしてハロペリドールが開始となった。その後彼女の精神状態は正常となりCAR-T療法開始から27日目で退院となった。

退院から1週間での再診時、彼女は体調良くFDG-PETではリンパ腫の寛解がみとめられた。

退院から2週間経過したところで再度混乱症状が出現しERを受診した。見当識障害があり、先日まで入院していたことも忘れていた。

バイタルサインはHR 116で頻脈だが血圧・呼吸数・体温は正常範囲内だった。神経診察では脱落徴候なくその他身体診察も異常はなかった。

 

 

このCAR-T療法から6週目の脳症の特徴は記憶障害Memory lossである。記憶障害は辺縁系脳炎を疑う徴候であり、ウイルス性・自己免疫性・腫瘍随伴性脳炎でみられる。

辺縁系脳炎はImmune effector cell–associated neurotoxicity syndromeでもみられるがCAR-T療法開始から離れたタイミングで起こっている今回のイベントはImmune effector cell–associated neurotoxicity syndromeらしさがない。

彼女の免疫不全状態であることを考慮するとウイルス性脳炎(HSV,VZV,CMV,EBV,JCV,HHV-6)を考えなければいけない。

真菌(アスペルギルス・クリプトコッカス)や結核、細菌性髄膜炎も考慮するが発熱や頭痛、神経脱落徴候がないことは今回のケースと合わない。トキソプラズマ・HIV・梅毒はCAR-T療法時のスクリーニングで調べているので否定的である。退院後の動物や昆虫の曝露歴は確認しておきたい。画像検査とCSF検査を行う方針としたい。

 

 

娘からの病歴聴取では、退院後の旅行や動物・昆虫曝露はないとのことだった。

血液検査ではWBC1700/mcL、CRP 0.7mg/dL、フェリチン4639mcg/L、その他生化学や血算に異常なし。胸腹部CTは異常なし。血液培養採取しCMV,EBV,HHV-6,HSV,JCV,VZVのPCR検査を提出した。

 

白血球減少と高フェリチンは急性反応の結果と思われ、血球貪食症候群は積極的には疑わない。CAR-T療法後の血球貪食症候群の診断クライテリアには以下のうち2つが必要

・アミノトランスフェラーゼやビリルビンの著明な上昇

・乏尿か著明なCr上昇

・肺水腫

・血球貪食の組織学的証明

CRP上昇がみられないのはトシリズマブを直近で使用しているためかもしれない。

 

頭部MRIでは両側の海馬の腫脹と辺縁系の造影効果あり、フォスカルネット、ガンシクロビルでの治療が開始された。アピキサバンを中止して24時間経過したところでLP実施し、初圧10cmH2O,髄液糖・蛋白正常で白血球は0だった。髄液PCRではHHV-6が陽性となった。末梢血ではHHV-6 DNA検査は陰性CMV load 1200IU/mLだった。

髄液の自己免疫脳炎関連、腫瘍関連の抗体検査は陰性だった

 

MRI所見は辺縁系脳炎で合致する。CSFでHHV-6が陽性であり他の疾患の検査は陰性であった。これによりHHV-6による辺縁系脳炎と診断される。末梢血CMV陽性だが髄液では陰性でその他症状ないためこれは免疫不全状態だからと解釈される。

免疫正常者の脳炎疑いではHSV脳炎がCommonであるためアシクロビルが投与が基本であるが、この患者は免疫不全であるためガンシクロビルの投与が推奨される。CMV脳炎の可能性があればフォスカルネットの併用も考慮する。

 

治療1週間では患者の臨床状態は改善せず、部分発作がみられるためバルプロ酸が開始となった。フォスカルネットは重症の電解質異常が出現するようになったため中止した(フォスカルネットは腎機能低下、低Ca、低Mgなどの副作用あり)。

 

治療開始2週間ではCSFのHHV-6 loadは減少していたが画像所見は変わらなかった。

治療はHHV-6 loadが検出されなくなったため3週間で終了となった。

5週目にも記憶障害は残存していたが画像所見は造影効果はなくなっており海馬の萎縮がみられた。12週目では意識レベルはよいが記憶障害は残存したままで、神経精神科リハビリ病院への転院となった。

 

Commentary

CD19-directed CAR-T therapyはB細胞腫瘍に用いられる頻度が増加しており、この患者のように再発性で治療抵抗性のB細胞リンパ腫患者のprogression-free survivalが40%の患者で2年延長する(CAR-T療法なしだと2年生存率は20%)。

Adverse effectはこの患者でみられたcytokine release syndromeやimmune effector cell–associated neurotoxicity syndromeなどである。

glucocorticoid-induced psychosisの診断はグルココルチコイド中止で完全に精神症状が改善することが必要。

 

immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeはまだ不明な部分が多く、全身性の炎症やサイトカインにより血管内皮細胞の機能不全をきたしBBBの破綻がおき、CNSで炎症を起こすため皮質や皮質下機能に影響すると考えられている。

cytokine release syndromeはimmune effector cell–associated neurotoxicity syndromeの前に見られることが多い。immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeの頻度や重症度は腫瘍サイズが大きい、LDHや炎症反応マーカーが高値、血小板低下、CRSが前駆している、神経疾患の基礎疾患があるなどと関連している。

immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeの治療はデキサメサゾンやメチルプレドニゾロンでの治療が推奨され、トシリズマブはCRSがみられた場合に検討する。ステロイドによく反応するため治療を開始しても反応性が乏しい場合にはその他疾患を考慮しMRI検査を検討するべきである。immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeではMRIは異常所見がないことが多く、ときに非特異的な所見がみられる。

ステロイドへの反応が乏しい場合は同様にCSFやEEGを検討する。

immune effector cell–associated neurotoxicity syndromeでは軽度の白血球増多やタンパク増加がみられる。

 

HHV-6は小児期に感染し、慢性の潜在性感染症をきたすウイルスで突発性発疹の原因となる。造血幹細胞移植や臓器移植に伴う免疫不全状態での再活性化がみられやすい。末梢血のHHV-6 DNA陽性は再活性化を示すが、通常は無症状である。再活性化が起きた患者のうちわずか1%で脳炎がみられる。

このCPSが出るまでに8例のCAR-T療法に伴うHHV-6脳炎の症例報告がある。

非常に稀であるためエビデンスのある治療は明らかでないがin vitroでのHHV-6への効果からガンシクロビルかフォスカルネットが第一選択となる。重症患者では併用も考慮する。治療の遅れは神経予後を悪くし、癲癇や昏睡状態をきたす患者もいる。ステロイド使用はウイルス複製を早めてしまうため中止すべき。治療は3週間程度だがCSFから検出される場合は6週間までの延長も考慮する。

予防的抗ウイルス薬は無意味。

治療を行っても57%の患者で不可逆性の神経障害が残る。