銅欠乏の原因は?

64歳女性が3か月前からの倦怠感と息切れを主訴にER受診。胸部不快感や動悸なし。

乾性咳嗽はあるが発熱・寒気・盗汗なし。下肢の感覚障害や歩行時のふらつき、筋力低下ないが経過中失神しかけて2回転倒している。

 

基礎疾患に片頭痛、うつ病、PSVTあり、アルコール依存症があったが3年前から禁酒している。

内服薬はエシタロプラムとメトクロプラミド、スマトリプタン、ベラパミルを処方されている。

アレルギーなし。

喫煙は17.5pack/yearだが3年前から禁煙

 

詳細に病歴聴取すると3か月前から嘔気があり、メトクロプラミドを飲むと症状は軽快していたが軟便(3回/日)があり体重は3か月で5.5㎏減っている。

血便・下血・腹痛なし。特定の食べ物での下痢はなく、夜間は下痢はでない。

普段は2日に1回普通便の排便があった。大腸内視鏡は3年前に実施し異常は指摘されていない。

 

メトクロプラミドで改善する嘔気はGastroparesisが疑われる。

ただしGastroparesisでは慢性下痢の説明はつかない

慢性下痢は免疫正常者では感染性でないことが多く、鑑別のために下痢が浸透圧性・分泌性・吸収不良によるものかを鑑別する必要がある。

 

 

身体所見

BP 96/51mmHg

HR 91bpm

RR ??  SpO2 100% ambient air

BT 36.3℃

瘦せており消耗した様子

 

結膜は蒼白

頸部や鎖骨上窩リンパ節は腫大していない

心音整 Levine2の収縮期雑音が●にあり

頸静脈圧は上昇していない

呼吸音は正常

腹部 軟 圧痛なし 触診上肝脾腫なし

浮腫なし

点状出血なし

ばち指やチアノーゼはみられない

歩行は正常で上下肢の筋力は保たれている

温痛覚や触圧覚、深部覚も保たれている

腱反射は正常でBabinski反射はみられない

座位から立位になったときに頭がふわっとするがバイタルサイン上は起立性低血圧なし

 

 

血液検査

Na 133mEq/L

UN 15mg/dL

Cr 1.2mg/dL

WBC 1990/mcL(Neut 72.8% , Lymph 10.1% , monocyte 16.1%)

Hb 3.8g/dL

PLT 21.4×10^4/mcL

MCV 112fL

RDW 18.6%

Ret 0.7%

 

Hb低値だったため3単位輸血されHb 6.4まで改善した

2日後にもHb低下あったため2単位投与された。

 

重度の大球性貧血+白血球減少は骨髄機能不全(産生低下)や赤血球破壊亢進が原因である。この患者では網赤血球低値であり骨髄での産生低下が示唆される。

 

大球性貧血の鑑別は

巨赤芽球性貧血(VitB12欠乏、葉酸欠乏、DNA合成を障害する薬剤(MTX、アザチオプリン、ハイドロキシウレア))

原発性骨髄機能障害(MDS、再生不良性貧血、白血病)

肝疾患

長期間のアルコール多飲

甲状腺機能低下症

 

大球性貧血+白血球減少は骨髄疾患、巨赤芽球性貧血、薬剤、銅欠乏

 

 

 

末梢血スメアでは大球性の赤血球あり、破砕赤血球や球状赤血球はなかった

好中球は分葉化しておらず、血小板は正常だった

 

2葉性好中球は偽性ペルゲル異常(Pelger-Huet anomaly)とよばれMDSやAML、薬剤による中毒で出現する。

 

LDHは基準値内、フェリチン高値、鉄やTIBCも高め、VitB12は基準値内

葉酸は低値だった。

ホモシステインは基準値内でメチルマロン酸も正常範囲

クームステストは陰性

TSH正常

 

 

LDHが基準値内でもう状赤血球低値、クームス試験陰性は溶血が否定的。

鉄関連の検査からは鉄欠乏性貧血は否定的。

VitB12は基準値下限に近いがメチルマロン酸やホモシステインが正常なので欠乏とは言えない。

骨髄機能不全の精査のために骨髄穿刺を行いたい

 

骨髄生検を行う赤血球系に空胞がみられた。芽球なし。

鉄染色では一部環状鉄芽球あり。

骨髄自体は正常で一部過形成あり。骨髄吸引液の次世代シークエンスでは塩基配列正常。

 

 

環状鉄芽球、骨髄過形成、空胞形成はMDSにみられる所見だが、この患者ではクローン性の細胞やシークエンス異常なくMDSは否定的。

 

環状鉄芽球は鉛中毒やアルコール多飲、VitB6欠乏、銅欠乏でみられる所見

 

多系統の異形成、環状鉄芽球、骨髄系および赤血球系の空胞化は銅欠乏の所見である。

銅欠乏を疑う場合には合わせて亜鉛の評価も行う。亜鉛の過剰摂取は銅欠乏をきたすため(Enterocyteで金属をバインドするタンパクが増えるため)。

 

亜鉛と銅を測定すると亜鉛は基準値の倍以上で、銅欠乏がみられた。

 

 

追加の病歴聴取を行ったが亜鉛含有のサプリメントや歯科口腔ケアクリーム、マウスウォッシュなどの使用はなかった。

 

銅欠乏+軟便、嘔気、体重減少の経過から吸収不良を考え上部消化管内視鏡を行う方針ととなった。Scalloped様の所見が十二指腸にみられた。生検するとリンパ球浸潤(50>/100enterocyte)がみられた。

 

患者の上部消化管内視鏡の所見はセリアック病を疑う所見だった。セリアック病の診断には組織トランスグルタミナーゼIgA抗体の検査を行うべきである。

この患者では組織トランスグルタミナーゼIgA抗体陽性でセリアック病の診断がついた。

 

セリアック病の治療はグルテンフリーの食事である。セリアック病の症候は栄養欠乏、貧血、骨密度低下、小腸のT細胞リンパ腫による消化管障害などがある。

Enterocyte中の銅過剰がないため、この患者の亜鉛過剰は銅欠乏に寄与していないと考えられた。

 

2週間にわたって塩化銅の静注を行い貧血は改善してきた。

輸血を行ったことでTACOと思われる症状・所見あり利尿薬を一時使用した。しかし低酸素血症は改善しなかった。CT再検で両肺のGGOあり、気管支鏡検査を行うとBALで赤血球とヘモジデリン貪食マクロファージがみられ肺胞出血の所見であった。

 

セリアック病に特発性肺ヘモジデローシスを伴うとLane-Hamilton症候群と呼ばれる。Coexistence of celiac disease and idiopathic pulmonary hemosiderosis, also known as Lane-Hamilton syndrome, has been reported in a number of cases, and introduction of a gluten-free diet has been associated with remission of pulmonary symptoms in several patients.

 

 

 

食事療法と銅投与で貧血や白血球減少は改善

肺のGGOも改善した。

 

 

コメンタリー

個人的ポイントまとめ

銅欠乏は胃バイパス術後や亜鉛過剰、吸収不良のある患者でみられる。

後天性の銅欠乏は可逆性の血液学的問題であらわれる。貧血と白血球減少がよくみられ、血小板減少は稀。貧血は小球性~大球性のどのパターンでもよい(この理由は不明)。

 

骨髄の評価では骨髄の空胞化や過形成、環状鉄芽球がみられ、しばしばMDSとの鑑別を要する。

神経障害は後索路障害パターン+末梢神経障害となり歩行困難や感覚障害、腱反射低下がみられる