クリプトコッカス髄膜炎

診断自体は難しくはないですがマネジメントが勉強になりました。

 

N Engl J Med 2020;383:2572-80.

DOI: 10.1056/NEJMcpc2027083

 

24歳男性 COVID-19陽性者の頭痛
診断:クリプトコッカス脳髄膜炎
Key point:非常に高い脳圧

 

 

特に基礎疾患を指摘されていない24歳男性
3週間前から倦怠感や全身の脱力感、頭痛が出現。
2週間たっても改善せず、息切れも出現したため近医受診しCOVID-19のRNA検査を受けたところ陽性となり対症薬処方され自宅待機を命じられた。
しかし頭痛は増悪し嘔吐も繰り返すようになったためMGHのERを受診。
各種検査や問診を受けベッドで休んでいたが、気づいたらベッドの傍に失禁して倒れていていた。

 

頭部CTは特記所見なく、MRIでは基底核(尾状核や被殻)にT2Wで高信号あり、一部は嚢胞様だった。
LP実施したところ初圧が55cmH2Oと非常に高く
タンパク 47mg/dL(ref 5-55)
糖  42mg/dL(ref 50-75)
細胞数 108/mL  リンパ球81%  単球18%

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起こっていることは脳髄膜炎である。

結核性だとタンパクはもっと高いことが多い

 

MRIで基底核にGrape like appearanceをつくり
脳圧が高い
のはクリプトコッカス脳髄膜炎の特徴である

ブドウにみえる??

髄液のグラム染色では

A:サイズの異なるグラム陽性の球菌がみえ(通常のグラム陽性球菌に比してかなり大きい)
B:強拡大でサーモン色の輪郭(ぼやけ)
がみられるのがクリプトコッカスの特徴でもある。

クリプトコッカス抗原に対するラテックス凝集反応のTiterは1:8192と強陽性で
髄液培養からはCryptococcus neoformansが検出された

 

HIV陰性者でもクリプトコッカス脳髄膜炎になることはあるが、本症例よりも高齢でありこの患者ではHIVによるAIDSが疑われた。
HIV-1抗体陽性で、CD4+細胞数は16/mcLと著明に低値を示した。

 


マネジメント

クリプトコッカス脳髄膜炎ではクリプトコッカスが髄液を吸収するくも膜顆粒に目詰まりを起こ
と考えられており、画像上明らかな閉塞起点がないにも関わらず高圧性の水頭症をきたす。

そのため定期的にLPを行い脳圧を正常にする必要がある。
LPでは終圧が20cmH2O以下になる、または初圧の50%以下にすることがIDSAガイドラインより推奨されている。脳圧亢進は予後不良の予測因子である。

この患者はLPしても翌日には初圧が55cmH2Oまで上昇しており非常に大変そう…
2週間経過しても脳圧が高いままだったためVPシャントの手術を行った。

2.5週間の抗真菌薬治療を行い、VPシャントを作成し状態が安定したところで抗レトロウイルス治療ARTを開始し退院となった。

 


以下Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases Eighth Editionより

簡単なまとめ

 

脳髄膜炎などの播種性クリプトコッカス症患者のほとんどが背景に免疫不全をもつ。

HIV感染症(CD4+細胞100/mcL以下からリスク↑↑)
リンパ増殖性疾患
サルコイドーシス
ステロイド使用
高IgM血症
高IgE血症
GM-CSFに対する自己抗体
モノクローナル抗体製剤使用
SLE
HIV陰性のCD4+細胞低下患者
糖尿病
臓器移植後
腹膜透析
肝硬変

患者の多くがHIV陽性。
HIV陰性患者でクリプトコッカス症をきたした患者のうち20%は背景因子に免疫不全がなかった。

AIDS流行前の米国でのクリプトコッカス症の有病率は100万人あたり0.8人だったが、AIDSがピークに達した1992年では100万人あたり50人まで増加した。
ARTが確立し、口腔内カンジダ症に対してフルコナゾールが使われるようになってからは100万人あたり10人まで減少した。

医療資源の乏しいサハラ周辺では有病率はとても高く、AIDS患者の15-45%でクリプトコッカス症との報告もある。
サハラ周辺はHIV陽性患者は10万人あたり95人で、進行しAIDSとなった患者は1000人に14人。サハラ周辺では結核で亡くなるよりもクリプトコッカス症で亡くなる患者の方が多い。

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サルコイドーシスの患者では肺や皮膚、中枢神経にサルコイドーシスとクリプトコッカス症の病変のオーバーラップが起こるため診断が非常に難しい。
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クリプトコッカス症で侵される臓器
中枢神経
髄膜炎は亜急性のことが多いが患者によっては急性~慢性経過と幅広い。脳膿瘍や水頭症による認知機能障害がおこることも


肺結節は単発~多発と様々
間質性肺炎パターン、空洞形成、気管内腫瘤、ARDS、縦隔/肺門部リンパ節腫大、粟粒パターンなど様々

皮膚
丘疹や皮下膿瘍、潰瘍形成や蜂窩織炎など


鬱血乳頭、外眼筋麻痺、角膜炎、視神経萎縮、網膜炎など
髄膜炎の症例では45%に眼症状を伴うという報告あり。

泌尿器
前立腺炎、腎膿瘍、陰部潰瘍
前立腺に無症候性に感染していることがしばしばあり、再発を繰り返す場合は前立腺の検査が必要

骨関節
溶骨性変化、急性~慢性の関節炎


筋炎

心血管
菌血症、心内膜炎、感染性動脈瘤など

消化管
結節性病変、胃や小腸の潰瘍性病変(しばしばクローン病との鑑別に難渋)、肝炎、腹膜炎

その他乳房や甲状腺、副腎、頭頚部に病変をつくることもある

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診断
墨汁染色が有名だが、クリプトコッカス髄膜炎で非AIDS患者での陽性率は50%、AIDS患者での陽性率80%と決して高いわけではない。アルシアンブルー染色や鍍銀染色なども候補に挙がる。

培養
ほとんどの培地で培養可能。3-7日目に陽性となることが多い。

抗原検査
ラテックス凝集反応検査やELISAは感度特異度ともに90%以上で有用。
髄液検査が実施できない事情がある場合は血清抗原を提出、160倍以上なら無症候であっても中枢神経感染症が示唆されると考える。

画像検査
胸部CT:前述のように様々な病変をつくるため特異度が高い所見はない。間質影がある場合はPCP合併を考える。

頭部CTでは1/3の患者で皮質の萎縮がみられる。
MRIはより感度が高く、基底核や中脳にT2wで高信号のクラスターがみられる(今回の症例のようなGrape like appearance)
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致死率は非常に高い
治療マネジメントは先に挙げた脳圧コントロールと抗真菌治療
治療例
アムホテリシンBリポソーム製剤(アムビゾーム®)3-4mg/kg/day+フルシトシン(アンコチル®)100mg/kg/dayを最低2週間投与、その後8週間のフルコナゾール(ジフルカン®)400mg/day投与。

腎機能に問題がある場合はフルシトシンの骨髄抑制に注意。