高Ca血症の鑑別

Looking for the Outsider

N Engl J Med 2020;383:2275-81.

DOI: 10.1056/NEJMcps2004935

 

44歳男性が6か月の経過で意図しない体重減少(-7kg)が進行し倦怠感あり受診。2年前から臀部と胸壁に痛みがあった。

以前に立ち上がろうと椅子を押した際に右の鎖骨の痛みがでて別の病院を受診し左鎖骨遠位部骨折と診断された。Xpでは溶骨性変化があった。

 

 

軽傷の外傷で骨折がみられる場合、骨髄炎・代謝性骨疾患・骨腫瘍を考える。

原発性骨腫瘍の他、多発性骨髄腫も溶骨性変化がみられる。2次性の骨腫瘍(転移)は乳がん、甲状腺がん、肺癌、腎癌でみられやすい。

 

 

陰性ROS:発熱、盗汗、呼吸困難、咳嗽、混乱、消化器症状、多尿、血尿

基礎疾患:慢性腎臓病、高血圧症

既往歴:腎結石、心筋梗塞(3回)

内服:メトプロロール、アスピリン、クロピドグレル

喫煙なし 飲酒しない 違法薬物使用なし

移住:米国に最近来たばかり

家族歴:腎癌の家族歴あり

 

身体診察

発熱なくBP 149/92mmHg , PR 67bpm , RR 18/min , SpO2 99%

リンパ節腫大なく頸部は柔らかい

心臓・肺・腹部・神経診察では特記所見なし

筋骨格系の診察では右鎖骨に変形と腫脹、痛みあり

 

 

患者の症状からは悪性腫瘍(多発性骨髄腫、原発性骨腫瘍)が疑わしく、頻度の低いものに慢性骨髄炎や骨Paget病がある。

原発性副甲状腺機能亢進症は溶骨性変化をきたし骨折の原因となる。腎結石の既往もあり鑑別に挙がる。

 

 

血液検査

WBC 18300/mcL

PLT正常

Hb 16.4g/dL

BUN 28mg/dL

Cr 2.3mg/dL(前回値 1.8)

Ca 14.3mg/dL

P 2.5mg/dL

ALP 621U/L

TP 7.3g/dL

Alb 3.8g/dL

その他肝酵素や電解質異常なし

血清・尿蛋白電気泳動はモノクローナルパターンではなかった

 

 

高Ca血症+倦怠感・体重減少・病的骨折は悪性腫瘍を考える。

市中のセッティングでの高Ca血症の原因の最多は副甲状腺機能亢進症。病院での高Ca血症の原因の最多は悪性腫瘍。

 

高Ca+低Pは副甲状腺ホルモンPTH増加か扁平上皮癌(PTHrP)を考える。

 

高Ca血症では腎性尿崩症をきたし、腎機能悪化も起こるため治療後のHb測定は考慮する(この患者はHbが高くヘモコンの可能性あり)

蛋白-アルブミン解離がなく、蛋白電気泳動も特記所見ないため骨髄腫は否定的。

 

γ-GTP正常でALP高値は骨疾患を考える。

悪性リンパ腫や肉芽腫性疾患も高Ca血症の原因となるがこの患者ではリンパ節腫大や脾腫などの所見がないため可能性は下がる。

 

高Ca血症+低P血症ではまずPTHを測定しPTHに由来するものなのかどうかを判断する。PTH高値、または不適切に正常値になっている場合は副甲状腺機能亢進症である。

PTH低値の場合は悪性腫瘍や肉芽腫性疾患、ビタミンD中毒を考える。

 

Serum PTH 4023pg/mL(ref 11-90)

25-水酸化ビタミンD 24ng/mL(ref >20)

1,25-水酸化ビタミンD 71ng/mL(ref 28-72)

PTHrP  14pg/mL(ref 14-27)

 

胸部Xpでは多発する溶骨性病変あり(肋骨や鎖骨など)

PET-CTでは骨にHypermetabolic lesionあり、前縦隔に境界明瞭な3.7cmの腫瘤ありFDG集積がある。

両腎は萎縮し非閉塞性の腎結石が多発している。大動脈や冠動脈の石灰化が著明。

 

輸液とゾレドロネート酸を投与され3日後に高Ca血症とAKIは改善した。

 

 

PTHが著明に高値なのでこの患者の高Ca血症の原因はPTHによるものである。

PTH高値の原因で頻度が最も高いのは副甲状腺の腺腫と過形成である。

しかしこの患者のPTHは飛びぬけて高いため副甲状腺癌が疑わしい。

 

前縦郭腫瘍の鑑別は胸腺腫、リンパ腫、胚細胞腫瘍、胸腔内甲状腺・副甲状腺(発生学的問題)

 

テクネシウムシンチでは副甲状腺腺腫の蓄積なし

腫瘍の骨転移の可能性を考慮し右鎖骨の生検を実施。

⇒褐色腫Brown tumorの診断

 

褐色腫

境界明瞭な破壊性の骨変化をきたししばしば多発する。好発部位は下顎骨・鎖骨・肋骨・骨盤。原発性副甲状腺機能亢進症に際して出現する。

 

内分泌科に診察依頼するとテクネシウムシンチは縦隔が含まれていないため再度テクネシウムシンチを行うことを提案され、実施した。

前縦隔の腫瘍に取り込みがみられたため手術方針となった。

摘出後はPTHは低下し術後5日目にはPTH 87pg/mLまで改善した。

その後患者は低Ca血症となったためCa製剤・ビタミンDなどを投与し治療された。

 

 

この患者の低Ca血症はHungry bone syndromeでよい。

副甲状腺腫瘍摘出後にPTHが正常化すると、もともとある副甲状腺の機能はまだ改善してこないため一時的に副甲状腺機能低下症の状態となっている。そうなるとCaとPはミネラル化されていない骨にどんどん取り込まれてしまい低Ca血症となる。

 

この患者の摘出された前縦郭腫瘍は副甲状腺癌だった。

 

若い患者で腎癌の既往があり、副甲状腺癌がある場合、Hyperparathyroidism-jaw tumor syndrome HPT-JTを除外する必要あり。

HPT-JTはMEN以外の家族性副甲状腺機能亢進症の代表的な疾患である。副甲状腺腺腫または癌、顎腫瘍、腎腫瘍、子宮病変を呈する常染色体優性遺伝疾患で原因遺伝子はCDC73.

 

患者は退院しHPT-JTの遺伝子検査を行ったが陰性だった。

 

手術から5年後の定期検査でPTH上昇がみられたためPET-CTを行うと縦隔に1.3㎝の腫瘍の再発をみとめた。再手術が考慮されたが患者はフォローアップから離脱してしまい再度受診することはなかった。

 

 

コメント

悪性腫瘍による高Ca血症では通常PTHは低値となるが、副甲状腺癌や異所性PTH産生腫瘍ではPTH高値となる。

Alb補正Caが14mg/dL以上だとSevere。輸液や

 

副甲状腺癌は珍しく、副甲状腺機能亢進症のうち1%未満である。米国で診断された悪性腫瘍のうち0.005%。

 

慢性腎臓病と過去の頸部の放射線曝露は副甲状腺癌のリスク。

 

病理学的に副甲状腺の非典型腺腫と癌を見分けるのは難しいため免疫染色を利用する。

 

MEN以外の副甲状腺機能亢進症をきたす疾患にHPT-JTがあり、遺伝子検査ではCDC73を調べる。

 

褐色腫でも溶骨性変化をきたすがPET-CTで集積がみられないため悪性腫瘍の転移との鑑別に使える。

 

副甲状腺癌の治療は手術!ケモや放射線療法は限定的でエビデンスに乏しい。

 

副甲状腺機能亢進症で高Ca血症になると、高Ca状態で輸入細動脈が収縮し糸球体濾過量が低下し、近位尿細管でのNa再吸収能低下によるVolume depletionが起こる。

また高Ca血症は腎性尿崩症をきたし腎結石や尿管結石症のリスクにもなる。

 

高Ca血症の患者は高CaによるVasoconstrictionにより高血圧を呈し、カテコラミン分泌増加、アルドステロン分泌増加をきたす。

また慢性的に高Ca血症が続くと冠動脈に石灰沈着が起こる。