低Mg血症の精査
Urinary Magnesium in the Evaluation of Hypomagnesemia
JAMA. 2020 Oct 30. doi: 10.1001/jama.2020.18400.
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糖尿病・高血圧症・心房細動・甲状腺機能低下症を基礎疾患にもつ63歳女性が治療抵抗性の低Mg血症のため受診。
血圧は148/68mmHg,HR 96bpm、体重は106.4kg
内服薬はリラグルチド・メトホルミン・アピキサバン・ソタロール・メトプロロール・レボサイロキシン・ベンラフェキシン・リシノプリル・ラニチジン・酸化マフネシウムと多量である。
以前の血中Mgが1.4mg/dLであったためマグネシウム内服開始されたものの今回の血液検査でも改善なし。HbA1cは10.8%と高い。
24時間蓄尿を行い電解質をみてみると以下のような結果となった。
この患者の低Mg血症の原因は?このあとのマネジメントどうする?
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マグネシウム(以下Mg)は細胞内液で2番目に多く、体液の中で4番目に多いカチオンである。
体内での分布は
細胞外 0.75-1.0mmol/L(1.8-2.4mg/dL) 70%がタンパクと結合しないFreeの状態
細胞内 0.5mmol/L(1.2mg/dL)
体内のMgのうち60%が骨に貯蔵されている
体内ではDNAとタンパク合成の一部に関与していたり、ミトコンドリア機能・炎症・免疫機能・アレルギー・神経活動・心臓興奮・神経筋伝導系・血圧などの調整機能を持つ
体内のMgの量の調節は消化管と腎臓で行われる。
腎臓では
糸球体濾過は100mmol/L/day
近位尿細管で25%が再吸収
太いヘンレの上行脚で65%が再吸収
遠位曲尿細管で5%が再吸収
集合管で2%%未満が再吸収
残った少量が尿から排泄される(数mmol/day)
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低Mg血症の鑑別は腎性と非腎性の鑑別から始まる。
まずは24時間蓄尿を行い排泄量をチェックする。その際尿中排泄を増加させる薬剤(利尿薬・Mg製剤)は中止しておく。
スポット尿で測定する場合は
FEMg = (血清Cr ×尿Mg)÷(0.7×血清Mg×尿Cr)
0.7は前述のタンパクと結合していないMgから
FEMgが4%以上,または1日排泄量が24mg以上の場合に腎性喪失パターンとなる。
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この症例では尿Mgの1日排泄量は117mgと非常に多く、腎性喪失が低Mg血症の原因だった。FEMgは6.8%と上昇していた。
腎性喪失が起こった原因は何だろうか?
一般成人の1日の尿クレアチニン排泄量は
女性 15mg/kg/day
男性 20mg/kg/day
でありほぼ体重通りである(ある意味ではこの患者は理想体重からかけ離れており不適切である)
こういった患者の腎性喪失は多尿に依るところが大きい。
多尿の状態は尿と尿細管との接している時間が短くなるため再吸収量が低下してしまう。
この患者は1日尿量5Lと非常に多かった。
尿浸透圧は561mosm/kgであり、浸透圧利尿が多尿の原因と考えられた。
この患者はDMのコントロールが悪いため糖尿病治療を行うことで低Mg血症も改善していった。
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低Mg血症の鑑別
- 消化管
吸収不良
小腸切除後
下剤多用
摂取不足 - 腎性
多尿状態(アルコール、利尿薬など)
高Ca血症
原発性アルドステロン症
代謝性アシドーシス
糖尿病
甲状腺機能亢進症
低P血症
ジッテルマン症候群
薬剤(アミノグリコシド、シスプラチン、シクロスポリン、ペンタミジン、サイアザイド、アムホテリシン、パニツムマブ) - 機序不明
急性膵炎
バーター症候群
SIAD
特発性