無脾症Aspleniaの鑑別

以前肺炎球菌菌血症の患者の診療し、侵襲性肺炎球菌感染症の届け出を行ったときに調べたまとめです。


72歳女性 肺炎で入院

甲状腺機能低下症とシェーグレン症候群を基礎疾患にもつ72歳女性

受診の3日前から発熱と咳嗽あり、改善しないためER受診

画像検査では左上葉にConsolidationあり、肺炎球菌尿中抗原は陽性で市中発症だったためCTRXで治療開始し入院とした。

入院2日目に血液培養で2セットGPC陽性の報告あり

T「お、肺炎で血培生えるの珍しいな。肺炎だし肺炎球菌か?まあ治療経過よいからこのままセフトリ継続だね~」

4日目にStreptococcus pneumoniaeと判明

抗菌薬不足という院内事情でABPCのオーダーができない時期であったためそのままCTRXで治療継続し治療終了となった。⇒ペニシリンGで治療しなさいという話

また5類感染症であるため届け出を行った。


肺炎球菌Streptococcus pneumoniae

肺炎球菌はグラム陽性双球菌である

肺炎、血流感染、髄膜炎、中耳炎の原因微生物となる

2歳未満、65歳以上では肺炎球菌感染症のリスクが高く、特に無脾や脾機能不全、慢性の心・肺・肝・腎疾患、免疫不全(抗体欠損・補体欠乏・好中球減少・悪性腫瘍)ではさらにリスク高くなる

莢膜多糖類の血清型は92種以上

莢膜を有するためオプソニン化されにくく、白血球に貪食されにくい

血液や髄液から肺炎球菌が培養される場合、侵襲性肺炎球菌感染症と定義される

G染色では上の写真のように莢膜の部分が抜けて見えるHalo signが特徴


ここで浮かんだClinical questionが

高齢者というのは肺炎球菌菌血症になるけど今回の基礎疾患は肺炎球菌菌血症のリスクになるの?

 

とりあえずマンデルの肺炎球菌の病原性のメカニズムの項を読んでみて

The spleen is the principal organ that clears unopsonized pneumococci from the blood stream.

In humans, highly opsonized particles are removed from the circulation in part by the liver. However, particularly with limited opsonization, the spleen assumes the most prominent role.

Presumably, the slow passage of blood through the spleen and prolonged contact time with reticuloendothelial cells in the cords of Billroth and the splenic sinuses allow the relatively less efficient removal of nonopsonized particles through natural immune mechanisms (see earlier).

脾臓が重要そうなのはわかった。

“無脾・脾機能低下”について調べようとなりました


脾臓について

赤脾髄Red pulp:古くなった赤血球や形態異常のある赤血球の破壊

白脾髄white pulp:免疫系を担当

Marginal zone:上記2つの間

赤脾髄にはマクロファージがいて補体によりオプソニン化された細菌を貪食する

Marginal zoneのB細胞はIgMとC2を大量に発現させ免疫反応に貢献している

莢膜を有する細菌に対する細菌(肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ桿菌B型)は補体によるオプソニン化を受けにくく、脾臓でほとんどが除去される


脾臓機能の評価

脾摘後の患者や先天性の無脾症以外では脾機能の評価は難しい
脾臓サイズと脾機能の関連についての文献は調べた限りはなし

良く知られているのはHowell-Jolly小体(赤血球内にある塩基性小体)をみること。

Howell-Jolly小体は赤血球産生の際に染色体の一部が残った核の遺残物であり、通常は脾臓の網内系を通過する際に小体が取り除かれる。

末梢血スメアでHowell-Jolly小体を含む赤血球が1%以上存在する場合、脾機能低下が示唆される

ただしカウントエラーなどの問題もありHowell-Jolly小体がなくとも脾機能低下は否定できない(感度が低い)

その他の異常としては

有棘赤血球

ターゲットセル

Heinz小体

担鉄赤血球

鉄顆粒細胞

Poolingの場としての脾臓がないため白血球増多や血小板増多もよくみられる所見である。

 

もっとも感度がよい脾機能の指標は”pitted erythrocyte”の割合をみること

0-4%  正常

5-15%  脾機能低下

16%-  脾摘後または重症な脾機能低下

感度、特異度ともに90-98%

Blood 1976;47(2):183–8.

Pediatrics 1985;76(3):392–7.

Am J Hematol 2012;87(5):484–9.

ただし特殊な顕微鏡が必要(日本ではコマーシャルベースでは見れないかも・・・)

その他の評価方法は肝脾シンチグラフィーである。

集積しない場合は脾機能低下が示唆される


ここ重要!!!
機能的無脾・脾機能低下症の鑑別

先天性
孤発性の先天性無脾
Heterotaxy syndrome 内臓逆位
自己免疫性多腺性内分泌不全症
Stormorken症候群

Hematologic/oncologic
鎌状赤血球症
球状赤血球症
白血病
リンパ腫
肥満細胞腫
慢性骨髄増殖性疾患
Fanconi症候群
造血幹細胞移植後
GVHD

Gastrointestinal
セリアック病
炎症性腸疾患
自己免疫性萎縮性胃炎
自己免疫性消化管症
好酸球性胃腸症
ウィップル病
消化管リンパ管拡張症

Hepatic
自己免疫性肝炎
肝硬変
アルコール性肝疾患
原発性胆汁性肝硬変
原発性硬化性胆管炎

Rheumatologic
SLE
橋本病
甲状腺機能亢進症
多発性硬化症
関節リウマチ
サルコイドーシス
肉芽腫性多発血管炎
Goodpasture症候群
シェーグレン症候群
糸球体腎炎

Immunologic
重症複合性免疫不全
C2欠損症
IRAK-4欠損症 TLR,IL-1,18のシグナル伝達障害
IgG2-4欠損症
IgA欠損症

Infectious disease
HIV

Miscellaneous
アミロイドーシス

Circulatory
脾臓の動静脈血栓症

Iatrogenic
高用量ステロイド
メチルドパ
TPN
脾臓への放射線照射

Immunol Allergy Clin N Am 40 (2020) 471–483

 

ちょっと文献紹介

鎌状赤血球症では生後6か月ごろから脾機能低下が始まり、5歳時点で90%が脾機能低下症となる
鎌状赤血球症の小児は肺炎球菌菌血症や髄膜炎のリスクが健常群と比較し35-100倍
J Epidemiol Community Health 2012;66(12):1177–81.

 

セリアック病では16-76%の患者で脾機能低下がみられる。
小児のセリアック病患者は健常群と比較し侵襲性肺炎球菌感染症のリスクは2倍
Rev Infect Dis. 3:299-309 1981

 

炎症性腸疾患の患者の40%はPitted erythrocyteの増加やIgM memory B cell減少がみられ脾機能低下が示唆される。
IBD患者は健常群と比較し侵襲性肺炎球菌感染症のリスクが1.5-2倍と高い。
Am J Gastroenterol 2015;110(11):1582–7.

 

SLEの患者の4.6-86%で脾機能低下がみられる
SLE患者は侵襲性肺炎球菌感染症のリスクがコントロールと比較し4.4-8.9倍
J Epidemiol Community Health 2012;66(12):1177–81.

 

莢膜を有する細菌の他、バベジア、マラリア、アナプラズマなどの赤血球寄生細菌、Capnocytophaga canimorsusが脾機能低下によりリスクが高くなる。
Hematology 2007;12(2):89–98.
Intern Med J 2008;38(5):349–56

 


脾臓に関連した重症感染症にoverwhelming postsplenectomy infection OPSIがある

OPSIは脾摘後におこる重症感染症で死亡率は50%と言われている。
J Infect,2001. 43(3): p. 182-6.

OPSIは脾摘後2年以内に起こることが多いが3分の1は脾摘後5年以降に起こる。
脾摘後患者の生涯のOPSI発症率は5%程度
侵襲性肺炎球菌感染症リスクは健常群の600倍!
Clin Infect Dis 2016;62(7):871–8.
Infect Dis Clin North Am 1996;10(4):693–707.

 


結局最初の症例はシェーグレン症候群と甲状腺機能低下症が脾機能低下症のリスクだった。
血液像確認するとしっかりHowell-Jolly小体がみられた。
肺炎球菌ワクチンの定期接種はしていなかったため、定期接種していただくよう指導し退院となりました。