慢性下痢の鑑別

参考
N Engl J Med 2018;378:73-9.
DOI: 10.1056/NEJMcps1701264

 

70歳男性 3か月続く下痢
症状出現の3週間前に数時間続く心窩部痛があった
その後下痢が3か月持続し、意図しない体重減少(5.9kg)もでてきた
上部消化管内視鏡では胃酸のpHが1.0と高い以外に異常なし
下部消化管内視鏡でも生検も含めて異常所見はなかった
腹部のMRIで肝臓に腫瘤影があり、ガストリノーマが鑑別に挙がり、ガストリンを測定すると2678pg/ml(ref <100pg/ml)と著明高値、生検を行いガストリノーマと診断された
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慢性下痢症は4週間以上続く下痢症と定義されており、原因には感染症・非感染性炎症・吸収不全・機能異常が挙げられる

便の性状はメカニズムを推定するのに有用であり
IBDでは血便
セリアック病では脂肪便
浸透圧性や分泌性では水様便
が出現する
旅行者下痢症の原因で多いのはE.coli、サルモネラ、カンピロバクター
下痢が長期間続く場合はgiardiasis , cryptosporidiosis , strongyloidiasis , amebiasisなどが疑われる
この患者はPPIを内服していた
PPIは顕微鏡的大腸炎microscopic colitisやCDIのリスクとなる
Whipple’s diseaseはTropheryma whipplei感染による疾患であり慢性下痢症の原因となるが移動性の関節痛・関節炎を伴うことが多い
慢性の水様便は浸透圧性と分泌性に分類できる
[便の浸透圧]と[(便中Na+K)×2]の差gapを比較するgapが50mOsm以内なら分泌性、125mOsm以上なら浸透圧性が疑わしい

便浸透圧ギャップが高値だと測定されない浸透圧物質があると判断する。ラクトースやフルクトース、ソルビトールが代表

慢性の下痢症で大腸内視鏡所見で異常所見がなくても生検は必要である
大腸内視鏡所見正常の疾患としては顕微鏡的大腸炎microscopic colitis,好酸球性大腸炎eosinophilic colitis,アミロイドーシスamyloidosisが挙がる
この患者は肝臓に腫瘤があった
Commonな良性の肝臓腫瘤としては血管腫や腺腫、巣状結節性過形成があり、悪性のものにはHCCや転移性、胆管がんが挙げられる  膿瘍の原因としてEntamoeba histolyticaは重要である
下痢+腹部臓器の腫瘤だと内分泌腫瘍を考慮しなければいけない
カルチノイド、ガストリノーマ、VIPomaが挙げられる
カルチノイドは小腸原発であり肝転移を起こすとカルチノイド症候群をきたす
VIPomaは通常膵臓腫瘍として発生する
尿中5-Hydroxyindoleacetic acid(セロトニンの代謝物)やガストリン、血管作動性小腸ペプチドvasoactive intestinal peptide,クロモグラニンAを測定することで鑑別できる
この患者はガストリンが著明高値であった
1次性高ガストリン血症はガストリノーマ
2次性高ガストリン血症はPPI、萎縮性胃炎、迷走神経切断後が挙がる
ガストリノーマの場合は胃酸は強酸となる
この患者はガストリノーマがあった
ガストリノーマをみつけたらMEN1は考慮しなければならない 1次性副甲状腺機能亢進症を伴うためCaの数値が参考になる
また家族歴が重要

ガストリノーマGastrinomaについて
症状には腹痛、下痢、胃潰瘍による胸焼けなどがある
75%の患者が下痢をきたす(強酸により消化酵素が正常に働かず、脂肪便となる)
また3-20%の患者は症状が下痢単独である
高ガストリン血症は必須であるが、前述の高ガストリン血症をきたす疾患がいくつかあるため有用とは言い難い
ガストリノーマは40-90%が十二指腸から発生するが、膵臓・胃・肝臓・卵巣・腹腔外から発生することもある
診断するのはなかなか難しく、症状出現から診断まで平均5年程度の期間となっている